鸚鵡 羅隠

ying wu · luo yin
雕籠翠羽の残れるを恨む莫れ
江南地暖かく 隴西寒し
君に勧む 分明の語を用ゐることを用ゐずと
語 分明を得れば 出づること転た難し

詩句原文:

「鹦鹉」
莫恨雕笼翠羽残,江南地暖陇西寒。
劝君不用分明语,语得分明出转难。

罗隐

漢詩鑑賞:

この詩は晚唐(ばんとう)の詩人、羅隠(らいん)の物に託(たく)して志(こころざし)を述べた作品である。羅隠は生涯「十上不第(じゅうじょうふだい)」(十度受験しても合格しない)に終わり、数十年にもわたって科挙の場に閉じ込められ、官途(かんと)の坎坷(かんか)や世の情勢の移り変わりに対して、骨身(ほねみ)に刻(きざ)まれるほどの理解を示した。唐末から五代にかけての時代、社会は動揺(どうよう)し、群雄(ぐんゆう)が割拠(かっきょ)し、羅隠は晩年、呉越王(ごえつおう)の銭鏐(せんりゅう)に身を寄せた。身の置き所は得たが、終始鬱々(うつうつ)として志(こころざし)を得ず、他人の下に寄(よ)り掛(か)かる味(あじ)わいは、常に心にまとわりついていた。

この詩は、鸚鵡(おうむ)を詠(よ)むことに託(たく)して、詩人が異郷(いきょう)に身を置き、他人の下に寄り掛かる複雑な心境を託している。鸚鵡(おうむ)は隴西(ろうさい)の産(さん)で、寒さを恐れ、暖かさを好むため、常に江南(こうなん)の地で飼(か)い慣(な)らされる。 詩人は鸚鵡をもって自らに喩(たと)える――あの「雕籠(ちょうろう)」(彫刻を施した籠)は身を寄せる屋根(やね)、あの「翠羽残(すいうざん)」(翠(みどり)の羽が損(そこ)なわれる)は才能の抑圧(よくあつ)、あの「江南地暖(こうなんちだん)」(江南の地の暖かさ)は眼前(がんぜん)の安逸(あんいつ)、あの「隴西寒(ろうさいかん)」(隴西の寒さ)は故郷(こきょう)の遥(はる)かさである。しかし最も人の玩味(がんみ)を誘うのは、後半二句の「慎言(しんげん)」への戒(いまし)めである。鸚鵡は人の言葉を真似(まね)るのが上手(うま)いが、それゆえに常に閉じ込められる。詩人は才能と学識(がくしき)に満ちているが、言葉を慎(つつし)まなかったためにたびたび時の忌(い)み嫌(きら)うものに触れた。この「分明語(ぶんめいご)」(はっきりとした言葉)の三文字は、鸚鵡の宿命(しゅくめい)であるとともに、詩人の自戒(じかい)でもある――乱世(らんせ)の中で、話をはっきりさせればさせるほど、境遇(きょうぐう)は一層難(むずか)しくなる。 詩全体は、鸚鵡を慰(なぐさ)める口調(くちょう)で表されているが、実は字字(じじ)ことごとく詩人の自己慰(なぐさ)めと深沈(しんちん)な嘆息(たんそく)なのである。

首聯:「莫恨雕籠翠羽殘,江南地暖隴西寒。」
Mò hèn diāo lóng cuì yǔ cán, jiāng nán dì nuǎn lǒng xī hán.
恨(うら)む莫(な)かれ 雕籠(ちょうろう)翠羽残(すいうざん)を、江南(こうなん)地暖(ちだん)にして隴西(ろうさい)寒(かん)し。

詩の書き出しは、慰(なぐさ)める口調(くちょう)で詩人の自況(じきょう)を語る。「恨む莫かれ」 の二字は、一見鸚鵡に運命を受け入れさせようとしているかのようだが、実は詩人が自らに思い晴(は)らさせようとしている――すでに籠の中にいるなら、恨んでも何の役に立とうか? 「雕籠」 は、精巧(せいこう)な囚人(しゅうじん)の籠で、詩人が身を寄せる屋根(やね)を暗に喩(たと)える――身を置く場所は得たが、自由を失った。「翠羽残」 は、鸚鵡の羽が切られることを描き、詩人の才能が抑圧(よくあつ)され、切っ先(きっさき)が収(おさ)められることを暗に喩える。次の句「江南地暖にして隴西寒し」は、寒暖(かんだん)の対比(たいひ)で、眼前(がんぜん)の安逸(あんいつ)と故郷(こきょう)の遥(はる)かさを描く。この「暖(あたた)かさ」の中には、現実の一時(いっとき)の安住(あんじゅう)があり、「寒さ」の中には、故郷(こきょう)を遥(はる)かに望(のぞ)む気持ちがある。 詩人はあたかも自分自身に言い聞かせるかのようだ。文句(もんく)を言うな、ここは少なくとも暖かい、あの寒い隴西よりはましだ、と。しかしこの慰めが穏(おだ)やかであればあるほど、背後(はいご)の無念さは深沈(しんちん)である――なぜならこの「暖かさ」は、自由を失う代償(だいしょう)と引き換えに得たものだからだ。

尾聯:「勸君不用分明語,語得分明出轉難。」
Quàn jūn bú yòng fēn míng yǔ, yǔ dé fēn míng chū zhuǎn nán.
君(きみ)に勸(すす)む 分明語(ぶんめいご)を用(もち)いる不用(ふよう)と、語(ご)得分明(とくぶんめい)なるも出(い)で轉(てん)じて難(かた)し。

この聯は詩全体の魂である。「君に勸む 分明語を用いる不用と」 は、戒(いまし)める口調(くちょう)で表され、鸚鵡を戒めるとともに、自らを戒めてもいる。鸚鵡は人の言葉を真似(まね)るのが上手(うま)いが、それゆえにしっかりと籠の中に閉じ込められる――もししゃべれなければ、あるいは少しは自由が得られたかもしれない。話をはっきりさせればさせるほど、主人は手放そうとしない。「語得分明なるも出で轉じて難し」 は、一つの「轉(てん)じて」(かえって)という字で、この逆説(ぎゃくせつ)の残酷(ざんこく)さを物語る。はっきりしていることが才能であるのに、枷(かせ)となった。はっきりと表現することが、閉じ込められることを招いた。詩人は生涯、文名(ぶんめい)で世に知られたが、文(ぶん)によって災(わざわ)いを招き、たびたび試験に落第した。まさにこの「語得分明なるも出で轉じて難し」の生きた写し絵である。 乱世(らんせ)の中、権貴(けんき)の屋根(やね)の下では、話をはっきりさせればさせるほど、境遇(きょうぐう)は危険(きけん)になる。この聯は、詩人の自らの遭遇(そうぐう)に対する血涙(けつるい)の総括(そうかつ)であるとともに、天下の才士(さいし)への痛切(つうせつ)な戒(いまし)めでもある。

総合的な鑑賞:

これは羅隠の物に託(たく)して志(こころざし)を述べる詩の中の、また一つの力作である。詩全体四句二十八字、鸚鵡(おうむ)を詠(よ)む名目で、自らの遭遇(そうぐう)を書くことを実とし、籠の中の鳥と他人の下に寄(よ)り掛(か)かる士(し)の運命を一つに溶け合わせ、詩人が乱世(らんせ)に身を置き、他人の下に寄り掛かる複雑な心境を示している。

構造から見ると、詩は表から裏へ、浅(あさ)きから深きへ進む層次を呈している。首聯は慰(なぐさ)める口調(くちょう)で幕を開け、「恨む莫かれ」でもって自らを慰めることを描き、「江南地暖にして隴西寒し」でもって現実と故郷(こきょう)の対照(たいしょう)を描く。尾聯はさらに深く入り、「君に勸む 分明語を用いる不用と」でもって「慎言(しんげん)」への戒(いまし)めを引き出し、「語得分明なるも出で轉じて難し」でもって全篇(ぜんぺん)を収束(しゅうそく)し、前二句の我慢(がまん)をより深い自覚(じかく)へと押しやる。二句の間、外から内へ、思い晴(は)らしから自戒(じかい)へ、層を追って深まり、渾然(こんぜん)一体である。

趣旨から見ると、この詩の核心は「忍(にん)」という字と「慎(しん)」という字にある。首聯の「恨む莫かれ」は、忍――自由への渇望(かつぼう)を、故郷への想(おも)いを、この雕籠(ちょうろう)の中の運命を受け入れようと耐(た)えること。尾聯の「分明語を用いる不用と」は、慎――慎(つつし)んで言い、慎んで行い、切っ先(きっさき)を隠(かく)し鋒(きっさき)を収(おさ)め、この乱世(らんせ)の中で命を全(まっと)うしようとすること。この「忍」と「慎」の背後には、詩人の深沈(しんちん)な無念さがあり、また乱世の知識人(ちしきじん)の生存(せいぞん)の知恵(ちえ)でもある。 しかしこの知恵が清醒(せいせい)であればあるほど、人は悲涼(ひりょう)を感じる――なぜならそれは「分明語」を放棄(ほうき)する代償(だいしょう)と引き換えに得られたものだからだ。

芸術的手法から見ると、この詩の最も人の心を動かすところは、「物に託して自らに喩(たと)え、言葉は穏(おだ)やかで意味は深い」という二重の映照(えいしょう)にある。詩人が鸚鵡を書く、筆筆(ひつひつ)は鸚鵡であり、また筆筆は自分自身である。雕籠を書くのは、籠の中の鳥の窮地(きゅうち)であり、他人の下に寄り掛かる士の境遇(きょうぐう)である。分明語を書くのは、鸚鵡の宿命(しゅくめい)であり、才士(さいし)の悲劇(ひげき)である。このような物を以(もっ)て人を書き、鳥をもって自らに喩える筆法は、個人の遭遇(そうぐう)に普遍(ふへん)的な意義(いぎ)を与え、一時の感慨(かんがい)を千古(せんこ)の共鳴(きょうめい)へと昇華(しょうか)させた。 詩全体の言葉は穏やかで、激しい言葉を露(あら)わにせず、しかし字字(じじ)は痛切(つうせつ)、句句(くく)は骨身(ほねみ)に徹(てっ)する。まさに中国古典詩歌の「怨(えん)して怒(いか)らず、哀(あい)して傷(いた)まず」の典型(てんけい)である。

表現上の特徴:

  • 物に託して自らに喩(たと)え、人と鳥が一体となる:鸚鵡をもって自らに喩え、雕籠(ちょうろう)をもって身を寄せる所に喩え、翠羽残(すいうざん)をもって才能の抑圧(よくあつ)に喩える。物我一如(ぶつがいちにょ)、妙(みょう)に合(がっ)して際限(さいげん)なし。
  • 言葉は穏(おだ)やかで意味は深く、含蓄(がんちく)に富む:詩全体は慰(なぐさ)める口調(くちょう)で表され、一字も直接に自らの悲しみを書かず、悲しみは自ずから現れる。一字も直接に世を非難(ひなん)せず、諷刺(ふうし)は自ずから現れる。怨(えん)して怒(いか)らず、哀(あい)して傷(いた)まず。
  • 二重の象徴(しょうちょう)、層を追って深まる:「江南地暖にして隴西寒し」は寒暖(かんだん)の対比(たいひ)であるとともに、故郷(こきょう)と異郷(いきょう)の対照(たいしょう)でもある。「語得分明なるも出で轉じて難し」は鸚鵡の宿命であるとともに、才士(さいし)の悲劇(ひげき)でもある。一語に二重の意味を持ち、意(こころ)は言葉の外(ほか)にある。
  • 逆説(ぎゃくせつ)をもって無念さを書き、慰めをもって痛切(つうせつ)さを書く:「恨む莫かれ」「君に勸む」はいずれも慰めの言葉だが、字字(じじ)無念さと悲涼(ひりょう)を滲(にじ)ませる。穏(おだ)やかであればあるほど、痛切(つうせつ)である。

啓示:

この詩は籠の中の鸚鵡(おうむ)を喩(たと)えとして、一つの古今変わらぬ主題を物語る――乱世(らんせ)の中では、話をはっきりさせればさせるほど、境遇(きょうぐう)は難(むずか)しくなる。

まず第一に、この詩は「言葉のリスク」を私たちに見せる。 鸚鵡は言葉を真似(まね)るのが上手(うま)いゆえに籠の中に閉じ込められ、才士(さいし)は敢(あ)えて言うがゆえに災(わざわ)いを招く。羅隠の生涯「十上不第(じゅうじょうふだい)」は、果たして「語得分明(ごとくぶんめい)」のゆえではなかっただろうか? この「分明語(ぶんめいご)」の三文字は、鸚鵡の宿命(しゅくめい)であるとともに、すべての敢(あ)えて言う者の宿命でもある。これは私たちに思い出させる。特定の時代において、沈黙(ちんもく)は知恵(ちえ)であるだけでなく、生存(せいぞん)の必要でもある。

さらに深く、この詩は「自由と安全の逆説(ぎゃくせつ)」について考えさせる。 江南(こうなん)の地の暖かさは、安全である。隴西(ろうさい)の天の寒さは、故郷(こきょう)である。江南に留(とど)まることは、一時(いっとき)の安住(あんじゅう)を意味する。隴西に飛び帰ることは、自由を意味する。しかし、鸚鵡の翼(つばさ)はすでに切り取られ、もはや選ぶことができない。詩人の晩年、銭鏐(せんりゅう)に身を寄せ、身の置き所は得たが、自由を失った。暖かさは得たが、故郷を失った。このような「身を安んじても心を安んずることは難しい」境遇(きょうぐう)は、無数の他人の下に寄(よ)り掛(か)かる者たちの共通の運命である。

そして最も人の心を動かすのは、詩中にあるあの「清醒(せいせい)な無念さ」である。 詩人は自分が雕籠(ちょうろう)の中に閉じ込められていること、自分が「分明語」を語れないことを知っている。しかし彼は自分を欺(あざむ)いてこの籠が楽園(らくえん)だとは言わず、自分が黙(だま)っていることを甘んじて受け入れているふりもしない。彼はただ「恨む莫かれ」「君に勸む」というような穏(おだ)やかな口調(くちょう)で、この残酷(ざんこく)な真実(しんじつ)を語る。この清醒さは苦痛(くつう)であるが、高貴(こうき)でもある――なぜならそれは、たとえ籠の中にいても、彼の心はなおも隴西の寒天(かんてん)の中を翔(かけ)り回っていることを意味するからだ。

この詩が描くのは晚唐の鸚鵡だが、現実の中で鋒(きっさき)を収(おさ)めざるを得ず、慎(つつし)んで言い、慎んで行わねばならないすべての人が、そこに共感(きょうかん)を見出すことができる。あの「雕籠」の中の後ろ姿は、すべての他人の下に寄り掛かる者の後ろ姿である。あの「分明語」への戒(いまし)めは、すべての目に遭(あ)ったことのある人の共通の嘆息(たんそく)である。あの「江南地暖」の自慰(じい)は、無数の故郷(こきょう)を離(はな)れ土地(とち)に背(そむ)く者の自らを慰(なぐさ)める言葉である。これこそが詩の生命力である。それは鳥を描くが、読むのは人の世の運命なのである。

詩人について:

Luo Yin

羅隠(罗隐 833 - 910)、浙江杭州富陽の出身で、晩唐の著名な文学者・思想家である。晩唐文学の重要代表として、羅隠は諷刺的な詩文でその時代に比類なく知られた。その詩は社会の闇を鋭く通俗的な言葉で直撃することが多く、現存する詩は五百首近くにのぼる。晩唐の詩壇では杜荀鶴・羅邺と並んで「三羅」の一人に数えられ、華美で退廃的な晩唐の詩風の中で独自の地位を築いている。

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金錢花 羅隠
jin qian hua

金錢花 羅隠

佳名を占めて樹を繞りて芳し依依として相伴い秋光に向かう若し此の物を教えて収め貯えしむるに堪えさせば応に豪門に尽く劚ち将らるべし 詩句原文:

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